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39話 薬師の剣舞、衆目の前で

作者: みみっく
last update 最終更新日: 2025-07-20 07:00:54

 今は空席だけど、俺たちじゃなくて他の冒険者だったら、たぶん王様も来てたんじゃないか?  これ、どう見ても“冒険者の実力を見るための試合”だよな。

 若い兵士が勝手に王城の闘技場を使えるわけがない。  普通なら練習場くらいが関の山だろ。

 ――つまり、これは最初から仕組まれてたってことか。

 そして、王族席には――

「……おいおい」

 ミリアが、当然のような顔でど真ん中に座っていた。  背筋をぴんと伸ばし、優雅に微笑みながら、俺に手を振っている。

 ――うん。君だけは、まったくブレないな。

「剣は? 木剣にする?」

 兵士が訓練用の剣と木剣を両手に持って差し出してきた。

「何でもいいぞ?」

 俺がそう言うと、兵士は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに木剣を差し出してきた。

「じゃあ、木剣でお願い」

 俺は木剣を受け取り、軽く振って感触を確かめる。  ――うん、悪くない。軽すぎず、重すぎず。

 そして、静かに構えた。

 観客席がざわつく。  その中で、ミリアだけが嬉しそうに手を組み、目を輝かせていた。

「さっさと終わらせて、帰って休みたい」

 俺は木剣を手に、ゆっくりと腰を落とした。  左足を半歩引き、木剣を鞘に見立てて、静かに構える。

 ――居合いの構え。

 観客席がざわつく。だが、対面の兵士はその意味を理解していないようだった。

「こちらは、いつでも良いぞ!」

 兵士は意気揚々と叫び、剣を振りかざして構える。  その顔には、勝利への自信がにじんでいた。

 ――知らないんだな、この構えの意味を。

 俺は静かに息を吸い、目を細める。  兵士が踏み込んでくるのを、ただ待つ。

 そして――

 兵士が剣を振り下ろそうとした、その瞬間。

 俺の体が、風のように動いた。

 木剣が一閃。  まるで空気そのものを断ち切るような鋭い音が、闘技場に響いた。

 次の瞬間、兵士の剣が弾かれ、彼の体ごと吹き飛んだ

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